病気の診断が医療機器の進歩に従い正確度を増してきた。それにつれて、患者は検査結果に一喜一憂するようになった。自覚症状があっても、検査結果に異常のない人もいる。心配ない結果でもつい神経質になってしまう。体を治す目的の薬の服用が、検査結果を上げ下げする目的にすり替わっているように感じるのは、私だけだろうか?「先生は検査結果ばかり見て、私の体は診てくれない」と不満を聞くことがある。昔は、人の五感に頼って診察をしていた。顔色、脈、舌、腹など、本人の訴えを総合勘案して判断した。中国最古の薬物治療書「金匱要略」の初めに、「上工は未病を治す」とある。「上工」は名医、「未病」は病気が潜んでいるものの兆候として現われていない状態をいう。名医は身体に潜む病態を発症前に探り、治療や予防をするという意味である。現代は多くの未病を早期に発見できるようになった。医学の進歩とは、すみやかに未病を発見して治療するような、現代の上工を増やすことにあるのかもしれない。