セオ薬局のお知らせ

ちょっと役に立つ話 「嚥下障害」


*鏡餅の意味

お正月健やかにお迎えになられた事と存じます。今年もよろしくお願い致します。

お正月にちなんで鏡餅を飾る意味を調べてみました。

平安時代に書かれた紫式部の『源氏物語』に、正月行事について次のような記述があります。「ここかしこに群れゐつつ、歯固めの祝いして、鏡餅さへ取りよせて、千歳のかげにしるき年の内の祝い事どもして、そぼれあへるに。」当時の宮中の正月行事では、新年の健康と良運とさらなる長寿を願う意味で、歯固めの祝いと鏡餅の祝いがセットになっていました。年齢という言葉に歯の字が含まれているように、健康と長寿のためには丈夫な歯が大切だと考えられていたのです。

新鮮で清らかな米から搗かれた鏡餅が、歳末から床の間などで正月飾りの中心として供えられ、新年の家々の厳粛さを支え、やがて鏡開きの日にぜんざいなどにして食され、その聖なる生命力と良い運気と歯固めの効力とが人々に分かち与えられる、このような伝統的な行事は、歴史を踏まえて考えるならば、なんともおくゆかしい日本の伝統文化といっていいでしょう。

*お餅を喉につめやすいー嚥下障害

そんな日本の伝統文化を現わす鏡餅ですが、お正月にお餅を喉に詰めてというニュースが毎年流れます。お餅でなくても急いで食事をした時等に食べ物がのどに詰まったり、むせたりした経験はだれにでもあるはずです。一時的なことなら心配ありませんが、こうした症状がしばしば起こったり、食事のたびに食べ物を飲み込みにくいと感じるようになったら、嚥下障害の可能性があります。一般に嚥下障害は、高齢者に多い病気だと思われがちです。しかし、50歳前後からは飲み込む力が少しずつ弱くなるため、中高年の人ならだれにでも起こりえます。食べ物などが食道でなく,気管に入ってしまうことを誤嚥といいますが、これも嚥下障害の一つです。気管に食べ物が入った場合でも、若い時にはむせる程度で済みます。ところが中高年になると、咳や痰によって吐き出す力も弱くなっているため、窒息という状態になりかねません。また誤嚥を起こすと、食べ物などが肺に入り、肺炎を引き起こすこともあります。2015年度の厚生労働省の人口動態統計によると、「肺炎」は日本人の死亡原因の第3位でした。また、肺炎で亡くなった方の96.9%が65歳以上でした。

さらに高齢者の肺炎の約70%は誤嚥が原因だと言われるほど、起こり易い症状です。

高齢者の場合、誤嚥性の肺炎を繰り返すと、生命に関わることも少なくありません。それだけに嚥下障害は、気がついたら早めに検査を受けたり、予防策を取るようにすることが大切です。放置していると、次のような弊害があることが知られています。

・窒息する事がある(家庭内で高齢者が窒息で亡くなる大きな原因が嚥下障害です)

・食べる楽しみが無くなる(飲み込みにくいため、食欲が無くなります)

・栄養不良(飲み込みやすいものばかり食べるようになり、栄養バランスを崩し、体調不良の原因となります)

・脱水症状(むせるのを避けるため飲み物の量が減り、知らないうちに脱水症状になっている事がある)

・誤嚥性肺炎(誤嚥によって細菌が肺に入ると、重症の肺炎を起こすことがあります)

次の様なことが増えたら、嚥下障害を疑ってみましょう。

○食事中によくむせる ○以前はむせなかったのに、時々むせるようになった

○食事中や食後によく咳が出る ○食べ物がのどにつかえる感じがする

○食べ物をお茶や味噌汁などで飲み込むことが多い ○食後に声が枯れたり、ガラガラ声になる

○むせやすい食べ物を避けている ○飲み込んだ後も、口の中に食べ物が残っている

○のど仏の位置が下がってきた

*加齢以外の嚥下障害

最近の研究から特に注目されているのは、脳卒中(脳梗塞、脳出血など)です。毎日当たり前のように食事をしていますが、これは食べ物がのどに送られると、その信号が脳(大脳基底核)に伝わり、反射的にのどの筋肉を動かす指令が出され、飲み込むという動作を起こすことで成り立っています。この時、大脳基底核になんらかの異常があると、信号の伝達がスムーズにいかず、のどの筋肉が円滑に活動しなかったり、飲み込む動作が遅れたりする現象が起こります。すると、うまく飲み込めなかったり、気管に入ってむせる等の嚥下障害が起こるのです。

脳卒中を起こすと、大脳基底核がダメージを受ける事が少なくありません。実際に脳卒中を発症した人には、一時的にせよ嚥下障害を起こす人が多いことからも、それがわかります。こうしたメカニズムが解明されるにつれ、脳卒中は嚥下障害の最大のリスクであると指摘されています。また、脳卒中で倒れたりするほどではなくても、中高年になると脳では軽い脳梗塞や脳出血がしばしばみられます。それが嚥下障害というサインとなっている可能性もあります。そのため嚥下障害がみられたら、大事になる前に検査を受けることも大切です。

■器質的原因ー舌炎、口内炎、歯周病、扁桃炎、咽頭炎、口腔内のがん、食道炎など

■機能的原因ー脳卒中、脳腫瘍、頭部のけが、パーキンソン病、筋委縮症など

■心因的原因ー神経性食欲不振、神経症、心身症、ストレス性の胃潰瘍や胃炎など

*自分でできる予防のトレーニング

自宅で日頃から、次のようなトレーニングをすることで予防や改善ができるので、生活の中に取り入れてみましょう。食事の前に行うとより効果的です。

①呼吸のトレーニング・・・腹式呼吸によって深い呼吸を心がけます。呼吸機能を高めることで、気管に食べ物が入った場合でも排出しやすくなります。腹式呼吸は、まずゆっくり息を吐き出し、最後はお腹をへこませるまで息を出し切ります。そしてゆっくりお腹まで息を入れる感じで吸っていき、これを繰り返します。食べ物がのどに詰まったり、むせたりするのは、食べ始めの時に最も起こりやすいので、食事の前に腹式呼吸をしてから落ち着いて食べるようにしましょう。

②発音のトレーニング・・・パ行(パピプペポ)、ラ行、タ行、カ行、マ行を繰り返し発音します。これらの音を発するときには、食べ物を飲み込む時と同じ器官(口、舌、のどなど)を使うので、器官を鍛える事ができます。

③首や口・舌のトレーニング・・・首や口・舌の周辺の緊張を取り、リラックスさせることで、飲み込む時の筋肉運動をスムーズにすることができます。首のトレーニングは、肩の力を抜いて、首をゆっくり前後左右に動かし、首筋をしっかり伸ばすようにします。口は、ほおをふくらませたり、へこませたりを繰り返します。舌は、思い切り前に出したり、引っこめたりします。これらは、食べ物を口に入れずにできるので、自分で安全に行うことができます。回数などは自分の体力などに応じて、無理のない程度にし、毎日続けるようにしましょう。

*冬の脳卒中予防

暖かい室内から寒い外へ外出や、家の中でもお風呂場等気温の差が激しい時に血圧が急激に上がります。このようなことをヒートショックといいますが冬の脳卒中の原因の一つです。温度の急激な変化に気をつけましょう。

●暖かい室内から寒い屋外に出ると、温度差により、血管が収縮して脳梗塞や心筋梗塞が起こり易くなります。

●風邪等の感染症による発熱で脱水症状が起こり血栓も出来やすくなります。