相談例集

2025年7月「まぼろしのサツマニンジン」

初夏の頃、鹿児島あるいは宮崎の山中で、運が良ければ赤い実をつけた「(ちく)(せつ)人参(にんじん)(トチバニンジン)」の自生を見かけることができるかもしれません。皆様ご存知のウコギ科「薬用人参」の一属の植物です。その昔「サツマニンジン」とも呼ばれていたようです。名前から想像する通り「薩摩(鹿児島)」に関係した薬用人参です。第八代将軍徳川吉宗が享保年間、全国に「オタネニンジン」(朝鮮人参、薬用人参、高麗人参等の名称で知られる)の栽培を奨励しました。この頃からさかのぼる事、約半~一世紀以上昔、明から渡来した漢方医一官何欽(いっかんかきん)(きつ)は、現在の宮崎県都城市梶山の山中で「人参」に良く似た竹節人参を発見、これに「和人参」と銘々し、医療に役立てたとあります。(三国(さんごく)名勝(めいしょう)図会(ずえ)庄内(しょうない)地理(ちり)(し))当時の都城は薩摩藩が支配していた関係で、流通する上では通称「サツマニンジン」と呼ばれていたようです。江戸期の専門家の古書には、髭(髭根)部を薬用としてすすめていたり(小野(おの)蘭山(らんざん)本草綱目(ほんぞうこうもく)啓蒙(けいもう)』)吉益(よします)東洞(とうどう)の『(やく)(ちょう)』には「朝鮮産は味甘く・・心下痞硬(しんかひこう)用うべからず・・本邦諸国に産する者(サツマニンジン)大いに効あり、苦を殺す(なか)れ」とあります。もっと古い書物は平安時代の記述も見受けられますが、同一植物かどうかわかりにくい所です。昭和初期の頃までは鹿児島県内でも薬種薬品として流通していたようで、三国名勝図会をめくると、入来、野田、出水、曽於、郷ヶ迫、末吉、須木、野尻、韓国岳、高原、高城、都城、飯野、小林などの産地が上がっています。現在は化学的な成分研究が進み、新しい発見では、薬用人参と同じダンマラン系の成分を多く含んでいる事が確認されています。一方、過去に乱獲が進み、地球温暖化などの影響で株が減少しており、「絶滅危惧種」に指定されています。専門家や一般の方々も含め、保護、教育や広報、研究が急がれるところです。

 

セオ薬局代表取締役 漢方薬・生薬認定薬剤師  瀬尾昭一郎

 


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